* す だ か *

僕と君だけの世界

僕は君だけを見ている。
でも君は僕以外も見ている。
どうしてどうしてどうしてどうして
何で僕以外を見ているの?
何で僕だけじゃだめなの?
認めない。絶対に認めてあげない。
僕以外を見てるなんて許さない。


彼はいつも僕と一緒にいてくれた。
外にいたらいじめられるから僕は外に出れない。
彼が町の人に言い聞かせてだいぶ穏やかになったけれど、まだわずかに石を投げてくる人がいる。
僕が今までやってきたことを思えば当たり前のこと。だから僕は特に気にしない。物理防御壁でも張っておけば済むことだ。
でも彼はそれが嫌らしい。だからなるべく僕を外に連れて行かないようにしていた。
僕は彼が僕のことを想っていてくれてるのがうれしくて彼に従って外へは出なかった。
外でのことはよく分からない。外に友人も知人もいないから。
それでも彼がいるから何もいらない。


ある日なんとなく窓の外を眺めていた。そしたら彼が女の子と楽しそうに並んで歩いているのが見えた。
それからというもの、彼はいつもにこにこしていて、外であったという女の子の話をしょっちゅう僕に聞かせた。
彼が外に出て行く時間は長くなり、僕の退屈で寂しい時間も長くなった。
あの子のせいだ。僕が寂しい思いをするのは。
ふざけないでよ。僕にとっては彼だけなのに。
何であの子がいるんだ。
君にとっては彼だけではないのだろう?
僕にとっての唯一の彼をどうして取るのさ。
許さない許さない許さない許さない


また見た。彼が女の子と歩いているのを。
窓越しにツィと指を動かす。指の先に灯る光は円を描き、弧を描き、やがて紋章を作った。
彼女にかけた魔法は一つ。
10日後に彼女がいなくなる魔法。
あと10日。あと10日で幸せな日々が戻ってくる。
それまで待っていよう。
今日もまた帰りの遅い彼を待って、笑顔で「お帰り」って言ってあげるんだ。


今日はあれから10日経った日だ。
彼は今日も彼女に会えると思って上機嫌で出かけていった。
笑いが抑えきれない。幸せな日の訪れはこんなにも愉快だ。
あぁ・・・。あの子のせいで毎日寂しかった。彼が僕よりもあの子と一緒にいる時間を大切にしているのが耐えられなかった。
でも今日で終わるんだ。彼がいつも一緒にいてくれる幸せな日々がまたやってくる。

いつもは夜近くまで帰ってこない彼は昼に帰ってきた。
「お帰り。今日は早いね?」
笑顔で迎えてあげる。
彼は俯いて悲しい顔をしている。 
あれ?ひょっとして君は・・・泣いているの?
「何で・・泣いているの?」
「あいつが・・死んだんだ・・・」
違うよ。何であの子が死んで君が泣くのさ。
「どうして・・・?」
その疑問が自然に口から零れた。
でも、きっと彼は違う意味として受け取ったのだろう。
「分からない・・・。昨日まであんなに元気だったのに」
彼は泣いていた。声を殺して泣いた。
「・・・僕が、いるよ」
そう。僕がいる。僕じゃだめなの?
「君には僕がいるじゃないか」
君とずっと一緒にいてあげる。
だから、泣かないでよ
「ね?」
「・・・・・あぁ・・・」
泣かないで。君が僕以外の人のために泣くなんて悲しい。悔しい。許せない。
せっかくの幸せな日の幕開けなのになんで死んでもあの子が僕達の邪魔をするんだ。
でも、大丈夫。時間があの子の存在を希薄にしてくれる。そうすれば幸せな日も戻ってくる。もう少しの我慢だ。

悲しみに暮れる彼にも仕事がある。彼は暗い表情で仕事に出かけた。
僕は彼に少しでも早くあの子のことを忘れてもらおうと炊事をしてみた。
優しい彼は仕事から帰ってきて体力的にも精神的にも疲れているであろうに僕の作ったご飯を食べていちいち美味しいと言ってくれた。
そんな日が過ぎていくにつれて彼はだんだんと前の元気さを取り戻してきた。
仕事もはかどっているみたいで、今度やる舞台を見に来てほしいと言われた。
「たぶん町のやつらももうお前をいじめたりしないと思うからさ。良かったら見に来てくれよ。」
「うん。暇だったらね。」
「いっつも暇だろ?」
「君が外に出るなって言うからだろう?」
そう言って僕達は笑いあった。
この日々が僕は欲しかったんだ。