蘭丸が光秀と同居するだけの話
1
婆娑羅学園は蘭丸の家から遠い位置にあり、通うのには少々難があった。電車が通っておらず、自転車でも1時間以上はかかる。わざわざ遠くの学校を受験したのだから当然なのだが、周りよりも早く帰らなければいけないのが小さい子供みたいで、蘭丸はついに耐えられなくなっていた。
「と、いうわけで。濃姫様、蘭丸は一人暮らしをしようと思ってるんです」
「そうは言ってもねぇ…。まだ中学生なんだし、一人は危ないと思うわ」
蘭丸は親の友人である濃姫先生に相談をしていた。濃姫は蘭丸が婆娑羅学園の受験をする際に力になってくれたので、蘭丸にとって一番頼りになる存在だ。
しかし、その濃姫も今回の蘭丸の提案には困るばかりである。しっかりしているとはいえまだ中学生の蘭丸が一人暮らしを出来るとは思えない。だが通学が大変であるのも前から気になってはいたのだ。
どうしたものかと2人が悩んでいると、偶然コーヒーを手にした保険医が通りがかった。
「帰蝶、どうかしましたか?」
保険医の明智光秀は濃姫先生の古くからの友人である。
白い長髪と白い肌は見る者を釘づけにするが、その性格は酷いものである事は学園の誰もが知っている。加虐趣味とし被虐趣味を持ち合わせており、その治療は相当な痛みを伴うという。ただし、完治すれば嘘のように傷跡が残らない、ある意味名医であるらしい。
「光秀、蘭丸君が一人暮らしをしたいらしいのよ。どうにかならないかしら…」
「蘭丸が・・・?」
へぇ、と呟いて光秀はコーヒーを一口飲んだ。
「無理だと思いますよ。大人しく自転車を漕いでらっしゃい」
「蘭丸は濃姫様に相談してるんだ!お前は口をはさむな!」
「ほらほら、蘭丸君落ち着いて。私も光秀の言うとおり無理だと思うわ」
蘭丸は「えー!」と言って縋るような眼で濃姫を見た。
「蘭丸君は育ち盛りの男の子よ。お料理だって自分でしなくちゃいけなくなるのよ?
栄養管理まで気が回せるとは思えないわ。そうしたら蘭丸君今までより忙しくなるわよ?」
言い返す言葉が見つからず蘭丸は俯いた。しかし、諦めきれない。不服そうに下唇を噛むと、濃姫の溜め息が聞こえた。
「そうねぇ…誰かの家に泊めてもらえるといいかもしれないわね・・・」
蘭丸がはっと顔を上げて目を輝かせた。そうだ、その手があったのだ・・・!
「濃姫様、近くに住んでいる生徒って誰がいますか?教えてください!」
「え、そ、そうねぇ…」
濃姫は蘭丸の変わり身の早さに驚きながらも名簿を取り出して早速調べ始める。
濃姫の家に泊めてくれと言わない辺り、なかなか胆が据わっているというか…
濃姫が名簿を探っている間に光秀は思い出したように
「そういえば、秀吉君と半兵衛君の家が近かったと思いますよ」
と言った。
「あんな奴らの愛の巣に踏み込む馬鹿がいるか」
「文句言ってられる立場じゃないでしょう、あなた」
「あぁ、そうだったわ!」
いきなり濃姫が叫んだので2人とも同時に濃姫の方を見た。
「どうかしましたか・・・?」
「光秀、あなたの家に泊まらせてあげたらどう?たしかそう遠くは無かったはずよね?」
『え』
光秀と蘭丸、2人の動きが止まった。思考を停止したようだ。
先に復活したのは光秀の方だった。
「な、帰蝶、あなた、そういう冗談はやめてください。だいたい帰蝶なら『光秀と一緒にいる事が一番危ない!』とか言うんじゃないんですか?」
「そ、そうですよ濃姫様 こんな奴と一緒に暮らすなんて、変態が感染します!まだ秀吉と半兵衛の愛の巣に行った方が…いや、そうでもないか…」
「それがいいわ。光秀はたまに蘭丸君に怪我でもしてもらって楽しんでればいいし、蘭丸君はそのぐらい我慢していれば今までより登下校がうんと楽になるわよ? これで万事解決! 良かったわねぇ、蘭丸君」
濃姫は一息にそう言うと、タイムバーゲンに行くからと言ってすばやく帰りの支度を始めた。
「ちょっと待ってください濃姫様! なんかさらっと酷い交換条件が付いた気がしたんですけど、」
「じゃあね、蘭丸君。お母さんには私からも言っておくけど、蘭丸君からも説明しておくのよ?」
バタンッとドアが閉まって濃姫が消えた。どうも面倒くさかったようである。
職員室にはまだ数人の先生が残っているというのに二人きりにされたような気がして蘭丸は寒気がした。
背後から光秀のあからさまなため息が聞こえて、蘭丸はもはや逃げられないであろうことを悟った。深呼吸をし、覚悟を決めて恐る恐る光秀の方を振り返る。
「全く帰蝶は・・・。で、あなたはどうするんですか?」
「は・・・? お前はいいの・・・?」
「たまに怪我してくれるんでしょう」
「するかバーカ! 本当にあの条件でいいのかよ!?」
「もちろん生活費は貰いますからね」
光秀にとっては厄介者が来ることより傷をいじることの方が大切らしい。蘭丸に戦慄が走った。
(変態か不便さか・・・。究極の選択だな)
そう考えて蘭丸は自分で驚いた。
普通の人にとって『変態と暮らす』と、『今まで通り不便なのを耐える』なんてどう考えても後者の方が自分に危険がなく、選ぶべき選択肢だからだ。
辛抱強く蘭丸の回答を待っている光秀を見て、目をそらす。
「・・・・・・泊まる」
試しにこっそり口にしてみただけの呟きだったが、光秀にはしっかり聞こえていたらしい。
意外そうに蘭丸をしげしげと見ると、にやりと笑う。
蘭丸は少し後ずさる。しまった、という気持ちが全身に走った。
「では準備が整った時で結構です。いつでもいらしてくださいね」
初めとは打って変わって「大歓迎です」と言う光秀を見て、これからの生活が一気に不安になった。
「行かないっていう手もあるんだ」
「なんか言われても準備がまだだとか言えばいい」
「だいたい保険医のあいつに会う機会なんてそう無いし」
「そうだ、深刻にならなくていい」
「わー! 振りすぎたべー!!」
「よし! 大丈夫、いける!」
体育の授業中、蘭丸はずっと『変態と同居する』という事について考えていた。
考えすぎて男子の居るサッカーコートから女子の居るテニスコート脇まで来ていたほどだ。
そして、テニスボールが剛速球で自分に向ってくるのにも気づかなかったほどだ。
ガツッ、という音がして蘭丸は倒れた。
「わー! 大変だべ! おい鬼子、しっかりしろー!!」
走ってきたのはボールを打った本人、怪力アイドルいつきちゃんだった。
いつきちゃんが懸命に呼び掛けるも、思わぬ所からの衝撃に耐えられなかった蘭丸はすっかり気絶してしまっている。
「先生ー! おらが打った球で人が気絶しただー! 保健室まで運んでくるベー!」
そう言っていつきちゃんはその怪力で、自分と変わらない齢の少年を担ぎ、保健室へと運び始めた。
蘭丸が目を覚ました時、いやに白いシーツが間に飛び込んできた。
ぼんやりと、ここはどこだろう、と考える。どうやら自分は真っ白なシーツと硬い掛け布団のベッドに横になっている。周りは薄い緑色のカーテンに囲まれていて、日差しが柔らかになっている。蘭丸は腕をついて起き上がろうとした。
「いって・・・」
動くと頭が響くように痛んだ。何があったのか、いまいち記憶がはっきりしない。
(えっと・・・今何時間目だ?)
さっとカーテンが開いて、シーツが光った。
「起きましたか。全くあなたは一体何をしていたんです」
厳しい声がして、蘭丸の頭は一気に血が巡った。
「な・・・なんでお前がいるんだよー!!」
「うるさいですね、保険医が保健室にいてはいけませんか」
蘭丸は今までの事を思い出し、自分の計画が台無しになったのを理解した。この保険医、明智光秀に会うことなく学園生活を順調に送るという計画が、だ。
「なんでこんな事に・・・」
がくっとうなだれると、光秀は呆れながら腕を組んだ。
「それはこっちの台詞です。いきなりあなたが女の子に運ばれてきたかと思ったら気絶してるんですから」
「蘭丸にだってなんで気絶したんだか…」
「あなた、授業中にも関わらず体育中の女子がいるテニスコートの横にいたんですよ。思春期なのは分かりますが覗きというのはあまり世間的に…」
「ちげぇよ!! 何変な誤解してんだ!!」
おや?と首を傾げる光秀を蘭丸は思いっきり睨んだ。変態に変態扱いされた揚句心配されるなんて不名誉である。
「では、何故テニスコートに?」
蘭丸は少し考えた。ただ単に「考え事」と言えばきっと根掘り葉掘り聞こうとしてくるだろう。しかし、素直に言っても負けた気がして嫌だ。さて、どうしたものか・・・
そこで蘭丸のいたずら心が働いた。
「お前のこと考えてた」
「は?」
相手を混乱させるためとはいえ、蘭丸自身、言ってみてから恥ずかしくなった。
むしろ自身が一番心乱されているのではないかと言うほどにドキドキと胸が鳴る。
なんか、これって・・・
(蘭丸が変態のこと好きみたいじゃねえか…)
蘭丸が思わず赤面していると、光秀もその考えに至ったのかもしれない。俯き、片手で口元を覆うのが見えた。それが照れなのか、はたまた嫌悪なのか蘭丸には判断がつかず焦る。同時に、自分の発言が光秀に多少の混乱を与えたであろうことを嬉しく思ったりする。
そして、光秀が顔をあげた。
「あぁ、私の家に泊まるという話ですね。そんなに考え込むほど嫌でしたら断っていただいても結構ですよ」
「な、」
光秀の返答は至って普通、むしろ冷めてるほど。
怒りや羞恥、色んな感情が沸々と湧いてきて、蘭丸は癇癪を起こしそうになるのを唇を噛んでこらえた。ここで我を失くしたら何かが無くなる気がした。
「誰もそんなこと言ってねぇだろバーカ! 泊まってやるからお前は隠したエロ本が見つかる心配でもしてろ! ・・・っいてて・・・」
大声で叫んだので頭に響いた。恥ずかしくなって、もう一度寝ると言って布団に潜った。
「と、いうわけで。濃姫様、蘭丸は一人暮らしをしようと思ってるんです」
「そうは言ってもねぇ…。まだ中学生なんだし、一人は危ないと思うわ」
蘭丸は親の友人である濃姫先生に相談をしていた。濃姫は蘭丸が婆娑羅学園の受験をする際に力になってくれたので、蘭丸にとって一番頼りになる存在だ。
しかし、その濃姫も今回の蘭丸の提案には困るばかりである。しっかりしているとはいえまだ中学生の蘭丸が一人暮らしを出来るとは思えない。だが通学が大変であるのも前から気になってはいたのだ。
どうしたものかと2人が悩んでいると、偶然コーヒーを手にした保険医が通りがかった。
「帰蝶、どうかしましたか?」
保険医の明智光秀は濃姫先生の古くからの友人である。
白い長髪と白い肌は見る者を釘づけにするが、その性格は酷いものである事は学園の誰もが知っている。加虐趣味とし被虐趣味を持ち合わせており、その治療は相当な痛みを伴うという。ただし、完治すれば嘘のように傷跡が残らない、ある意味名医であるらしい。
「光秀、蘭丸君が一人暮らしをしたいらしいのよ。どうにかならないかしら…」
「蘭丸が・・・?」
へぇ、と呟いて光秀はコーヒーを一口飲んだ。
「無理だと思いますよ。大人しく自転車を漕いでらっしゃい」
「蘭丸は濃姫様に相談してるんだ!お前は口をはさむな!」
「ほらほら、蘭丸君落ち着いて。私も光秀の言うとおり無理だと思うわ」
蘭丸は「えー!」と言って縋るような眼で濃姫を見た。
「蘭丸君は育ち盛りの男の子よ。お料理だって自分でしなくちゃいけなくなるのよ?
栄養管理まで気が回せるとは思えないわ。そうしたら蘭丸君今までより忙しくなるわよ?」
言い返す言葉が見つからず蘭丸は俯いた。しかし、諦めきれない。不服そうに下唇を噛むと、濃姫の溜め息が聞こえた。
「そうねぇ…誰かの家に泊めてもらえるといいかもしれないわね・・・」
蘭丸がはっと顔を上げて目を輝かせた。そうだ、その手があったのだ・・・!
「濃姫様、近くに住んでいる生徒って誰がいますか?教えてください!」
「え、そ、そうねぇ…」
濃姫は蘭丸の変わり身の早さに驚きながらも名簿を取り出して早速調べ始める。
濃姫の家に泊めてくれと言わない辺り、なかなか胆が据わっているというか…
濃姫が名簿を探っている間に光秀は思い出したように
「そういえば、秀吉君と半兵衛君の家が近かったと思いますよ」
と言った。
「あんな奴らの愛の巣に踏み込む馬鹿がいるか」
「文句言ってられる立場じゃないでしょう、あなた」
「あぁ、そうだったわ!」
いきなり濃姫が叫んだので2人とも同時に濃姫の方を見た。
「どうかしましたか・・・?」
「光秀、あなたの家に泊まらせてあげたらどう?たしかそう遠くは無かったはずよね?」
『え』
光秀と蘭丸、2人の動きが止まった。思考を停止したようだ。
先に復活したのは光秀の方だった。
「な、帰蝶、あなた、そういう冗談はやめてください。だいたい帰蝶なら『光秀と一緒にいる事が一番危ない!』とか言うんじゃないんですか?」
「そ、そうですよ濃姫様 こんな奴と一緒に暮らすなんて、変態が感染します!まだ秀吉と半兵衛の愛の巣に行った方が…いや、そうでもないか…」
「それがいいわ。光秀はたまに蘭丸君に怪我でもしてもらって楽しんでればいいし、蘭丸君はそのぐらい我慢していれば今までより登下校がうんと楽になるわよ? これで万事解決! 良かったわねぇ、蘭丸君」
濃姫は一息にそう言うと、タイムバーゲンに行くからと言ってすばやく帰りの支度を始めた。
「ちょっと待ってください濃姫様! なんかさらっと酷い交換条件が付いた気がしたんですけど、」
「じゃあね、蘭丸君。お母さんには私からも言っておくけど、蘭丸君からも説明しておくのよ?」
バタンッとドアが閉まって濃姫が消えた。どうも面倒くさかったようである。
職員室にはまだ数人の先生が残っているというのに二人きりにされたような気がして蘭丸は寒気がした。
背後から光秀のあからさまなため息が聞こえて、蘭丸はもはや逃げられないであろうことを悟った。深呼吸をし、覚悟を決めて恐る恐る光秀の方を振り返る。
「全く帰蝶は・・・。で、あなたはどうするんですか?」
「は・・・? お前はいいの・・・?」
「たまに怪我してくれるんでしょう」
「するかバーカ! 本当にあの条件でいいのかよ!?」
「もちろん生活費は貰いますからね」
光秀にとっては厄介者が来ることより傷をいじることの方が大切らしい。蘭丸に戦慄が走った。
(変態か不便さか・・・。究極の選択だな)
そう考えて蘭丸は自分で驚いた。
普通の人にとって『変態と暮らす』と、『今まで通り不便なのを耐える』なんてどう考えても後者の方が自分に危険がなく、選ぶべき選択肢だからだ。
辛抱強く蘭丸の回答を待っている光秀を見て、目をそらす。
「・・・・・・泊まる」
試しにこっそり口にしてみただけの呟きだったが、光秀にはしっかり聞こえていたらしい。
意外そうに蘭丸をしげしげと見ると、にやりと笑う。
蘭丸は少し後ずさる。しまった、という気持ちが全身に走った。
「では準備が整った時で結構です。いつでもいらしてくださいね」
初めとは打って変わって「大歓迎です」と言う光秀を見て、これからの生活が一気に不安になった。
「行かないっていう手もあるんだ」
「なんか言われても準備がまだだとか言えばいい」
「だいたい保険医のあいつに会う機会なんてそう無いし」
「そうだ、深刻にならなくていい」
「わー! 振りすぎたべー!!」
「よし! 大丈夫、いける!」
体育の授業中、蘭丸はずっと『変態と同居する』という事について考えていた。
考えすぎて男子の居るサッカーコートから女子の居るテニスコート脇まで来ていたほどだ。
そして、テニスボールが剛速球で自分に向ってくるのにも気づかなかったほどだ。
ガツッ、という音がして蘭丸は倒れた。
「わー! 大変だべ! おい鬼子、しっかりしろー!!」
走ってきたのはボールを打った本人、怪力アイドルいつきちゃんだった。
いつきちゃんが懸命に呼び掛けるも、思わぬ所からの衝撃に耐えられなかった蘭丸はすっかり気絶してしまっている。
「先生ー! おらが打った球で人が気絶しただー! 保健室まで運んでくるベー!」
そう言っていつきちゃんはその怪力で、自分と変わらない齢の少年を担ぎ、保健室へと運び始めた。
蘭丸が目を覚ました時、いやに白いシーツが間に飛び込んできた。
ぼんやりと、ここはどこだろう、と考える。どうやら自分は真っ白なシーツと硬い掛け布団のベッドに横になっている。周りは薄い緑色のカーテンに囲まれていて、日差しが柔らかになっている。蘭丸は腕をついて起き上がろうとした。
「いって・・・」
動くと頭が響くように痛んだ。何があったのか、いまいち記憶がはっきりしない。
(えっと・・・今何時間目だ?)
さっとカーテンが開いて、シーツが光った。
「起きましたか。全くあなたは一体何をしていたんです」
厳しい声がして、蘭丸の頭は一気に血が巡った。
「な・・・なんでお前がいるんだよー!!」
「うるさいですね、保険医が保健室にいてはいけませんか」
蘭丸は今までの事を思い出し、自分の計画が台無しになったのを理解した。この保険医、明智光秀に会うことなく学園生活を順調に送るという計画が、だ。
「なんでこんな事に・・・」
がくっとうなだれると、光秀は呆れながら腕を組んだ。
「それはこっちの台詞です。いきなりあなたが女の子に運ばれてきたかと思ったら気絶してるんですから」
「蘭丸にだってなんで気絶したんだか…」
「あなた、授業中にも関わらず体育中の女子がいるテニスコートの横にいたんですよ。思春期なのは分かりますが覗きというのはあまり世間的に…」
「ちげぇよ!! 何変な誤解してんだ!!」
おや?と首を傾げる光秀を蘭丸は思いっきり睨んだ。変態に変態扱いされた揚句心配されるなんて不名誉である。
「では、何故テニスコートに?」
蘭丸は少し考えた。ただ単に「考え事」と言えばきっと根掘り葉掘り聞こうとしてくるだろう。しかし、素直に言っても負けた気がして嫌だ。さて、どうしたものか・・・
そこで蘭丸のいたずら心が働いた。
「お前のこと考えてた」
「は?」
相手を混乱させるためとはいえ、蘭丸自身、言ってみてから恥ずかしくなった。
むしろ自身が一番心乱されているのではないかと言うほどにドキドキと胸が鳴る。
なんか、これって・・・
(蘭丸が変態のこと好きみたいじゃねえか…)
蘭丸が思わず赤面していると、光秀もその考えに至ったのかもしれない。俯き、片手で口元を覆うのが見えた。それが照れなのか、はたまた嫌悪なのか蘭丸には判断がつかず焦る。同時に、自分の発言が光秀に多少の混乱を与えたであろうことを嬉しく思ったりする。
そして、光秀が顔をあげた。
「あぁ、私の家に泊まるという話ですね。そんなに考え込むほど嫌でしたら断っていただいても結構ですよ」
「な、」
光秀の返答は至って普通、むしろ冷めてるほど。
怒りや羞恥、色んな感情が沸々と湧いてきて、蘭丸は癇癪を起こしそうになるのを唇を噛んでこらえた。ここで我を失くしたら何かが無くなる気がした。
「誰もそんなこと言ってねぇだろバーカ! 泊まってやるからお前は隠したエロ本が見つかる心配でもしてろ! ・・・っいてて・・・」
大声で叫んだので頭に響いた。恥ずかしくなって、もう一度寝ると言って布団に潜った。