* す だ か *

三つ目の名

三つ目 3

ここはどこだろう。きょろきょろと辺りを見渡しても白い世界が続くばかりで何も見当たらない。
きっと夢の中だ。
夢だと認識してしまえば自分の思い通りだという。
さて、何をしよう?
そうだ。幼い頃に戻ってみよう。帰蝶の一生に。
ふわっと白い世界は故郷の風景に一変する。
綺麗な青空に、穏やかな鳥の鳴き声。澄んだ空気。
傍らにある白い世界の名残のようなそれは桃丸だ。
「帰蝶」と呼ぶ声は記憶に残る少年の声に間違いない。でも、これは沈んだ声?
違う。私が見たいのは楽しい夢。こんな声は聞きたくない。
子供がただ遊んでいる夢が見たいだけ。
しかし、小さな口から紡がれるのはひたすらに暗い声。
「戦、です」
「え?」
知らない知らない。私が故郷にいたときは私が知っている中で戦なんか無かった。
「私は、戦場に行かねばなりません」
「そんな・・・!?」
「いえ、」
彼はいつの間にか手にしていた黒く光るそれを私の手に握らせる。
それは私の手にしっかりと握られ、やたらとしっくりくる。
「貴女も、です」
瞬間、世界は変わった。
子供の姿は急速に成長し、大人になる。
空は赤く、火の爆ぜる音、煙たい空気。
辺りの穏やかな風景は無く、燃える炎の中二人は立っていた。
あぁ。これは、これは・・・!


はっと目が覚めた。
泣きつかれていつの間にか寝てしまっていたらしく、ぼうっとしていると夢が覚めていないことに気づいた。
背中に当たる堅い感触はおそらく壁だ。
そして、手には銃。
その手を包むように白い、男の手があった。
銃口は彼の胸にぴったりと当てられている。
男は向かい合うようにして彼女の前に座っていた。
「光・・・秀?」
男は妖しく哂っている。
「私は、濃姫であった頃の貴女との約束を果たしに来たのです。貴女の手で死ぬ、というね」
「! 嫌よ・・・。やめて、光秀・・。」
こんな状況でもまだぼうっとしている自分の頭が憎かった。
ただ、首を横に振って身を捩った。
「ねぇ、帰蝶?」
優しい。優しい声。
「私の、南光坊天海の一生を使った、」
静かで、安心する低い声。
「桃丸の、光秀の、一生に一度の願いを、聞いてくれますか」
落ち着いていて、焦りを感じさせない声。
彼女はそれに麻痺されたように動けなかった。
「来世で、必ず会いましょうね」
言い終わると同時に引かれる引き金。
彼は弾けるように倒れた。
白に滲んでいく赤は残酷なほど美しい。

あぁ、外は晴れている。

白い幽霊は 雨が止み、日が差すと消えてしまった。
きっと、引き金が引かれた理由はそれで十分。


────── いつか夢見た、戦の無い時代で、必ず。
必ず会いましょう。