* す だ か *

三つ目の名

一つ目 2

少女は言った。強くなれ、と。
小柄で運動が苦手な少年には難しいことだった。
髪から肌まで白く細い少年は、見たものに骨、あるいは幽霊を連想させる。
趣味が読書で、暗いところで本を読んでいると本当に幽霊に見え、驚いて逃げ出す者もいた。
少女に誘われ稽古を何度かしたが、体力も剣の才も無かった。少女との試合で負け、ふてくされては本を読み、人が驚いた。
少女はいつも稽古や遊びに誘ってくれた。
外に出たがらない少年の手を引き、山へ入った。
日の光を嫌う少年のために話し相手になった。
嫌われ者であった少年にとってそれはどんなにありがたく、うれしいことであったろうか。
しかし、彼女は嫁いでいってしまった。
その前にお互いに約束をした。
少女は嫁いで後悔しないこと。
少年は強くなること。
「またね」と言った少女に「さようなら」と返した。
少年はどこかで分かっていた。きっともう会えない、と。
会えたときはもう自分じゃなくなっている。少なくとも自分は変わっている。
今まで弱い少年を見てきた少女は強くなった少年をはたして受け入れられるであろうか。
きっとできない。少年はそう思っていた。

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私の心はいつでも本の世界にあった。
幻想、空想、妄想の世界。
現実の世界を見ようともしなかった結果なのだから仕方ないと言えるだろう。その世界では誰も私を気味悪がらず、帰蝶もずっと側にいた。
現実の世界では生きていくことができないと分かっていたし、そんな偽物の世界でもそれなりに私は満足していた。
そんな日が永遠に続いていくのだと思っていた。
しかし、終わりは唐突だった。戦が起きたのだ。
ろくに稽古もしていなかった私でも戦に連れて行かれた。
戦というものは幻想、空想、妄想の中にいた私には耐え難い現実だった。
人々がずっと一緒に楽しく暮らしていける幻想にいた私は人々が殺しあうのが耐えられなかった。
戦の壮大さ、美しさの空想にいた私には戦の虚しさ、悲惨さに耐えられなかった。
英雄という妄想の中にいた私には人の小ささが耐えられなかった。
人の汚いところを今まで見てこなかった分、一気に見せつけられたような気がした。
見ていたくない。
これが現実であって、何が何でもこの世界で生きていくしかないなんて認めたくなかった。
今更現実を見た私には衝撃が大きすぎたのだ。
頭の中に現実と妄想がぐるぐると渦巻いて 知らず、頭を抱えた。
渦は私の意識を容赦なく洗い流していってしまった。